植物療法は、ライフスタイルが変わるきっかけになる

植物の力で、 もっと人生を美しいものに

ネリー・グロジャン

自然療法博士という硬い肩書きが ついているネリーさんですが、開口一番 「私はファーマーです」とにっこり。 その気さくな笑顔に、 ナチュラルな生き方を大切にしている 女性であることが感じられました。

 両親はナチュロパシー(自然療法)の先駆者

――南フランスの緑豊かなプロバンスで育ったということですが、その環境は当然、著名なアロマテラピストとして活躍している現在のあなた自身の基盤になっているのでしょうね。

ネリー もちろんです。でも、ただ緑が豊かだったというだけではなく、私の両親は普通とはかなり違った人たちで、徹底したナチュラリストでした。実験農場を作り、そこで有機野菜を作り、温泉療法をし、ヨガやダンスの講習をするなど、ナチュロパシーの実践者だったんですよ。それは美しい農場でしたよ。

――ナチュロパシーとはどういうものですか。

ネリー 自然療法のことです。ホメオパシーは類似療法、そして逆療法のアロパシーといろいろとありますが、ナチュロパシーはこれから静かなブームになっていくと思いますよ。環境汚染が反省されている時代ですから。両親はこうした時代になるずいぶん以前から自然療法の先駆者だったんです。

――ということは、かなり変わった子供時代を経験したということでしょうか。

ネリー 当時はね。私はおかげで小学校を退学になったんですから。

――退学ですか。それはまたなぜ?

ネリー 両親の方針で予防注射を受けなかったり、白パンではなく、黒パンをお弁当に持っていったりしたからなんです。先生から「黒いパンを食べるのはブタだけです」と怒られ、学校には合わないということで退学になりました(笑)。それが今はどうでしょう。健康ブームでどこでも黒いパンがもてはやされています。世の中は変わるものですね。

ヨーロッパでは 魔女狩りの標的だった 植物療法

――時代は変わると言えば、この20年ほどでヨーロッパでの植物療法に対する評価はがらりと変わったそうですね。

ネリー そうですね。ガット・フォセ博士やジャン・バルネ博士といったお医者さんがアロマテラピーを見直し、支持する前までは迷信と思われていました。なにしろほんの一世紀前までは、植物療法をする人は、魔女狩りの標的にもなったんですから、公にはできないことでした。

――魔女狩りですか。ということは、魔女狩りにあった人たちというのは、植物に詳しいヒーラーだったんですね。

ネリー そうですね。それは何百年、何千年という時間をかけて得られた植物療法の治療師だったんです。

――ということは、ネリーさんのお祖母さんやお母さんはまさに魔女だったのかもしれませんね。

ネリー きっとそうでしょう(笑)

――幸い、日本ではそういう不幸な歴史はなかったので、かなり民間の植物療法は残っています。とは言っても、民間療法は現代医療の隅に押しやられていますが……。

ネリー 今、ヨーロッパでは、環境汚染が進んで科学や現代医療に対して反省が出てきています。おかげでナチュロパシーやアロマテラピーに対して偏見はなくなりつつあります。

――日本ではまだ、アロマテラピーは医療としては認められてはいませんが、フランスでは医療として認められており、お医者さんも勉強している人が多いとのことですが。

ネリー そうですね。アロマテラピーはすでに医療としての市民権を得ていますね。

――フランスでは今、どのぐらいの人たちが実際にアロマテラピーを活用していますか。

ネリー 55%ぐらいの人たちが実際に使ったことがあるんじゃないですか。

――ということは半分以上の人がアロマテラピーを。つい少し前までは現代医療が否定していたわけですから、すごい変わりようですね。

直接、心や精神に 働きかけてくる 香りだからこそ、 自然のものを

――植物療法は日本にもありますが、アロマテラピーはこれまで日本にはなかったものです。あえてお聞きしたいのですが、ほかの植物療法に比べてアロマテラピーが優れている点はどこですか?

ネリー 精油はいわば植物の精そのものであり、エッセンスなんです。それだけに非常に効き目が早いということがすぐれている点ですね。

――そしてまた、香りはアロマテラピーではなくてはならない独自のものですね。

ネリー そうなんです。香りは私たちの精神的なものに直接、影響を与えることができます。だからこそ、短い間に効果が現れるわけです。精神的な何かが変われば、それは瞬時にして肉体へと影響を及ぼしますから。その香りの早い作用を考えると、合成のものではなく、純粋に天然のものでなければいけない理由もおわかりになるでしょう。

――効果が高いぶんだけ、使う人にはそれなりの知識も求められるわけですね。

ネリー そうです。一滴、一滴ではっきりとした影響を心やからだに与えるものなので、慎重になることが求められます。ほかのオイルで希釈しなければ使ってはいけない精油も多いですよ。

――最近は日本にもいろいろな海外のメーカーの精油が入ってきています。中には、化学合成物が混じった精油もあると聞いています。ネリーさんは、どんな精油をすすめますか?

ネリー やはり有機栽培されたオーガニックな精油ですね。たとえばフランスの農業規格エコサート(Ecocert)の認定マークがついた精油は信頼がおけますよ。精油の効果は、やはり自然に作られたものでなければ発揮されないことは忘れてほしくないですね。

植物療法への関心は 環境破壊を見直す きっかけになる

――ネリーさんの著書「エステティック・アロマテラピー」を読むと、植物のパワーは、たんに健康に役立つだけではなく、もっと私たち自身を美しく、そして人生を充実させるために役立つことが見えてきますね。

ネリー そうなんです。植物療法は、ただ不健康な人にとって必要なものではなく、健康な人にとっても必要なものだと思います。

――やりたいことが多すぎて忙しい人ほど、植物療法をうまく取り入れれば、もっと気持ち良く動けますしね。

ネリー もうひとつ、こんな環境汚染の時代だからこそ、植物療法への理解は大切なことだと思います。正直言って私は焦りを覚えています。本当は今すぐにでも、私たちのひとりひとりがライフスタイルや考え方を変えなければ、この地球は危ないところまできているのですから。そういう意味でも、最近の植物慮法に対する関心の高まりは、ライフスタイルを見直すのにいいきっかけになると思いますよ。

――確かに。植物たちがどんなにすばらしい力をくれるかがわかれば、むやみな環境破壊は、幸福になるきっかけを台なしにしているはずだと気づくはずですね。