コロナと石けん

―科学的視点で考えてみよう―

洗剤・環境科学研究所 代表 長谷川 治

毎日、マスク、手洗い、消毒、ステイホームの生活をしている中で、テレビから新たな情報が入ってくるとわからないことがかえって増えてくることがあります。こういう時は初心にかえって科学的に考えてみることが重要です。

ウィルスと手洗い

 石けんで手洗いをすると手についたウィルスは、石けんの溶解させる力により水に流れて手からなくなります。また今回の新型コロナウイルスは、表面がエンベローブ(被膜)におおわれており、この膜は脂質が主成分なので石けん液に溶けてしまうのでウィルス本体が死滅してしまいます。

 また、アルコールの場合、その殺菌性の為にウィルスを死滅させることができるので手だけでなく、器物にも噴射させれば効果がでます。

コロナウィルス対策として石けんは効果あり。

経産省等が石けんを有害化学物質に指定する提案

 コロナウイルス対策に石けんが大活躍しているこの時に、厚労省、経産省、環境省がPRTR法(化学物質排出把握管理促進法)の「有害化学物質」の第1種に石けん(脂肪酸ナトリウム,脂肪酸カリウム)を指定する法律改定案を2月に提案してきて意見の公募がありました。このコロナ対策に大事な時に、どさくさにまぎれて提出するとは非常識です。

ビーカーでの実験(石けん液の中にミジンコを入れたら死滅した)の結果、「生態毒性」があるという内容でした。石けんは使用後、川、海に流れたら水中のカルシウム分(硬度分)と結合し、水に不溶性の脂肪酸カルシウム(カルシウム石けん)になり、魚のエサになってしまいます。脂肪酸カルシウムは農水省では牛や鶏のエサとして認定され、配合飼料に使われ、牛に食べさせると健康になり肉質も向上することが確認されています。5千年前から使用され、その有効性が明らかであり、環境問題は一度もないのになぜ今回提案してきたのでしょうか。

石けんは海を汚しません。

はじめに結論ありき

 今回は経産省が中心となっており、この経産省とつながりのある日本石鹸洗剤工業会(花王、ライオン、P&Gなど洗剤メーカーが主体の団体)の動きがありました。合成洗剤の主成分、合成界面活性剤(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩など9物質)がPRTR法の第一種に指定されており、石けんが指定されていないので石けんを目の敵にしていたのがこの工業会です。この会を忖度して提案されたものと考えられます。

これに対し、パブリックコメントは、541団体、個人から出され、圧倒的多数が石けんを第一種に指定すべきではないという意見でした。この意見に対し、当局の回答は、石けん(脂肪酸ナトリウム又はカリウム)が水中では脂肪酸カルシウムになることは認めながら脂肪酸カルシウムは0.04%水に溶けるから有害だと説明。脂肪酸カルシウムは脂肪酸ナトリウム(カリウム)とは別の物質にもかかわらず実験もしない、非科学的な回答でした。このPRTR法は法律ですが、中味は化学物質の問題であり、専門家の意見に耳を傾けるべきであり一部の官僚、役員、事務担当に委ねるべきではない。


※PRTR法は有害な化学物質がどこから、どこに排出されたかを統計にしています。現在、指定有害物質は、562種類です。
→PRTR法はこちらから

アルコールのかわりに台所洗剤を推奨?

 コロナウイルスの対策に、器物消毒用のアルコールが不足しているので台所用合成洗剤などの合成界面活性剤に消毒効果があるとの実験結果を5月29日に経産省が発表し、推奨しています。実験結果をみると、石けん(脂肪酸カリウム)にも効果があったのですが0.1%以下に薄めると効果がないので削除し、合成界面活性剤(LAS、AS、AGなどの7種類)のみを推奨しています。これも「はじめに結論ありき」でした。ただ皮肉にも次亜塩素酸水は有効性がなく、条件を変えて再実験するという。

日本の死亡者数が少ないのは?

コロナウイルスでの死亡者は日本で少ないのですが、日本の「まじめな国民性」であり、日本モデルだなどという人がいますが、これも御都合主義、非科学的といわざるを得ない。世界的にみると、日本、アジア、ポルトガルなどBCG接種を今もしている国が、死者が少ない。すなわち抗体が少なからずあるという疫学的な説明が現在のところもっとも納得でき、科学的です。京都大の山中伸弥教授もこの考えを評価しています。



長谷川 治 プロフィール

1947年 福島県伊達市⽣まれ 1970年 千葉⼤学⼯学部合成化学科卒 太陽油脂株式会社に 46 年間勤務。研究、営業、事務を経験し、取締役開発部⻑、 製造部⻑、消費者相談室⻑等を歴任した。この間、ナチュロン泡シャンプー、ボデ ィーソープ、ハミガキ等を開発、発売した。 2016年 「洗剤・環境科学研究所」を⽴ち上げ代表となり、現在に⾄る。 ⼩さい時は体が弱く、体⼒をつける為には何が必要か考え、⾷品を研究しようとして油脂会 社に⼊社し、また油脂の応⽤としての⽯けんの研究、販売を通じて健康と環境問題に取り組 みはじめた。現在あまりに⾦だけの世の中になっている(利益を上げることが評価されてい る)ことをやめ、健康と環境に貢献することが認められるような社会にしていきたいと考え ている。

    著書
  • これでわかる!⽯けんと合成洗剤50のQ&A(合同出版)
  • あわあわぶくぶく!せっけん(チャイルド社)