アイシス・ウィーン支部から7回目の記事が届きました。原発ゼロのオーストリアでは、バイオマスエネルギー活用に力を入れています。

バイオマス活用は森林破壊になるのではと懸念する声もありますが、オーストリアは、林業がとても盛んな国でありながら、年々少しずつ、森林が増えているそうです! 何故なのでしょうか。今回、ウィーン支部の記者の取材によって、その理由が明らかになりました。(アイシス編集部・編集長 水上洋子)


オッシアッハ森林研修所 その1
林業だけではなく、
バイオマスそして森林保全も学べるユニークな研究所


世界中から人々がやってくる森林研修所

 

オーストリアは、国土面積の47%が森林です。その豊かな森林を生かして、自国産の再生可能エネルギーとしてバイオマスエネルギーが盛んに活用されています。

現在、オーストリアのエネルギーは、約26%が再生可能エネルギー(水力発電や風力発電など)から供給されており、これはEU内でも6番目に高い割合です。そのうち約61,4%という高い数値が、バイオエネルギーになっています。
バイオマスエネルギーのうち、約65%は森林由来です。(そのほかのバイオマスエネルギーとしては、一般家庭の生ごみやガーデニングからのごみ、製紙工業からの廃液、汚水浄化の際に沈殿する沈泥などがあります)。集合住宅用や家庭用として、たくさんの種類のペレットストーブも発売されるほどペレット生産も盛んです。

日本では林業は、衰退産業になろうとしており、森林放置が問題になっていますね。羨ましいことにオーストリアは林業が、とても盛んな国。原発ゼロだからこそ、再生可能エネルギーであり国産エネルギーでもあるバイオマスエネルギーも積極的に活用されています。

オーストリアの林業がいかに先進的なものであるかを示す例として、他にはない森林研究所があります。オーストリア南部ケルンテン州で2番目に小さい町オッシアッハ。オッシアッハ湖の畔にあり、湖とそれを取り囲む山々の恩恵を感じられる自然豊かで、どこか懐かしいほっとする静かな町です。毎年夏には音楽祭が開催され、「ケルンテンの夏(カリンシアの夏,Carinthischer Sommer)」としても有名です。


この静かな町に、世界的に有名で世界中から研修生が訪れるというオッシアッハ森林研修所があります。



先日、日本人の方々が研修に来られているということもあり、取材してきました。
オーガニックや自然エネルギーに関心が高いオーストリア。そこにある森林研究所ではいったい何が行われているのでしょうか。なぜ多くの研修生が外国からも研修に訪れるのでしょうか。そして日本人研修生の方々は何を学び、どんな思いを抱いたのでしょうか?


研修所で学んだら、すぐに森林で実践!

オッシアッハ森林研修所は、オーストリアならではの、大変ユニークな研修所です。

1953年12月に設立されたオッシアッハ森林研修所は、昨年60周年を迎えました。年間200人程度の参加者で始まった研修所ですが、今日では国内外から約7000~8000人もの参加者が林業の専門知識を高めるためにセミナーや展示会を訪れています。

まず森林研修所所長ヨハン・ツェシャー(Johann Zöscher)さんにお話を伺いました。



アイシス(アイシス・ウィーン支部 ゼマンみのり記者):
何故このような研修所が作られたのですか?

ツェシャー所長:
1950年代当時、手挽きノコギリからチェーンソーへの変遷が起こりました。チェーンソーは周知の通り、危険な工具の1つです。「林業従事者は学校で教育・訓練を受け、どのように怪我や事故を起こさずにチェーンソーを使うのかを習うべきだ!」と先見の明のある営林署員達が考え、そして設立されたのがこの森林研修所です。

アイシス:
現在、じつに多くの研修生たちが国内外問わず遠方から訪れているそうですが、それほどまでのこの森林研修所の魅力とは何でしょうか?

ツェシャー所長:
実習を最終的な主要目標としているからだと思います。日本もそうですが、よい林業専門知識を学べる学校があっても、残念ながら実際の現場である森林での実践が不足しているのが諸国林業の悲しい現状です。
オッシアッハ研修所では『見て、聞いて、実践する』をモットーに、専門知識の講義の後、すぐに研修所私有地である630haの森林の中に入り、工具を使い、習った知識を実際に使えるものになるように体で覚えこませます。 ですから3.5時間離れたところにあるイタリアの林業学校も実践施設がないため、毎年5回、4日間から5日間の実習に来ます。林業専門知識は実践の場で発揮できてこそ意味があるのです。

アイシス:
オーストリア国内以外に、外国からも研究生が多く訪れているとのことですが、どんな国からですか?

ツェシャー所長:
イタリアを中心にヨーロッパの各国だけではなく、日本・韓国・中国などアジアからも年々多くの研修生が訪れています。58人分の宿泊場所が併設されているのも、約1週間の研修に訪れやすい理由ですね。

アイシス:
宿泊施設も充実しているのですね。ところで宿泊所にブータンとメキシコでの写真が掲げてありましたが。ブータンやメキシコからも研修生が来ているのでしょうか?

ツェシャー所長:
いいえ、その写真は、こちらからブータンやメキシコのほうへ2人の林業教育者を数年間派遣し、教育・トレーニングをした時の様子です。これは1970年代に始まったFAO(Food & Agricultural Organisation:国際連合食糧農業機関)プロジェクトによるもので、国際的な支援活動として行われました。

アイシス:
オシアッハでのセミナーだけでなく、研修に来られない外国へ出向き、そこでの教育をもしているとは、とても驚かされ、感動です!



森林資源を持続的に活用するエコロギー&エコノミー




アイシス:
オシアッハ森林研修所ではチェーンソーなど工具の講習の他にどんなことを教育されているのでしょうか?

ツェシャー所長:
主に重視して講習されるのは、林業にとってたいへん重要な次の5分野です。

1.森林管理・森林経営
2.森林と地球温暖化などの気候変動
3.森林とバイオの多様性
4.森林とバイオマスエネルギー
5.森林と自然災害

アイシス:
森林と自然との関係、そしてバイオマスについても林業では重要な点として講習が行われているのですね。 林業をたんに経済的な視点からだけではなく、環境保全という視点からも、相互的に捉えた知識が学べるのは、さすがオーガニック先進国オーストリアですね。 さて林業によるバイオマスエネルギーについて、オーストリアの現状を襲えてください。

ツェシャー所長:
オーストリアのバイオマスエネルギーはとても進んでいます。EU協定によるとオーストリアは2020年までにエネルギーの34%を再生可能エネルギーにより生成することを義務付けられていますが、ケルンテン州では既に38%に達しています。その中でも大部分を占めているのが森林由来の再生可能エネルギーで、約60%にもなります。

アイシス:
ところでひとつ心配なことがあります。森林由来のエネルギーが増えれば増えるほど森林伐採につながり、逆に自然破壊に繋がってしまう可能性があるのではと思ってしまうのですが。

ツェシャー所長:
森林由来のバイオマスエネルギー用には、製材時などに大量に出る廃材・くず材、吹き倒れの木々などを使います。森林所有者達が、「そういった木々を捨てるのはもったいない。何かに使えないだろうか。」と思い、そして始まったのが、バイオマスエネルギーへの利用です。
しかしながら、考慮しなければならない重要な点はもちろん森のエコロギー(持続可能性なエコロジー構造)についてです。山の地面からたくさんの栄養を取り去ってしまうことになるので、森の栄養となる吹き倒れの木々も使いすぎてはいけないのです。

アイシス:
バイオマスエネルギーや自然エネルギーの使用は環境保護にとても重要なことですが、何の知識もなしに全ての落ち葉や倒れた木々を使ってしまうと、かえって森の生態系を壊し山林自体を壊してしまい兼ねない。林業では再生可能エネルギーと森のエコロジーのバランスを保ちながら実施しなければならないのですね。

ツェシャー所長:
そうです。森は防御機能・活用機能・福祉機能・リラックス機能など沢山の機能を持っているのです。森は私達にとって、経済圏であり生命です。エコロギー・エコノミー・テクニックは常に共に作用し、バランスを保っていなくてはなりません。どれか1つでは、持続可能な林業は成り立ちません。しかしながら、根本は森を守ることにあり、それを忘れてはならないのです。



研修終了式後も熱心に質問をする研修生達



森林資源の活用はともすると、森林破壊につながるのではという心配があります。しかしオーストリアでは、 森林をたんに経済的資源とみなすだけではなく、生命とみなし、計画的な植林をすることによって、持続可能な林業をしているのです。



日本でも、持続可能な林業の活性化を

アイシス:
じつは日本もまたたいへん森林に恵まれた国です。残念ながら林業は衰退産業と見られています。ぜひ日本の林業へメッセージを送っていただけませんか。

ツェシャー所長:
日本がまずすべき重要なことは、熱効率を考えた住宅への改築だと思います。日本へは何度も行っていますが、外が暑い時は屋内も暑く、屋外が寒い時には屋内も寒いです。それを沢山エアコンを使って調節していて、残念ながらとても環境によくない状態だと感じています。外気に左右されない住宅にすることがエコ・エネルギー最適化への第1歩だと思います。
日本は森林にとても恵まれており、オーストリアの森林面積は国土の47%に対し、日本は70%です。これはオーストリアの森林面積の10倍にあたりますが、残念ながら林業に使用してるのは、オーストリアの使用森林面積とほぼ同じです。オーストリアは林道が多いから林業が盛んになりました。日本もまずは、インフラを整えることが大事になると思います。

アイシス:
オーストリアのように、日本でも林業が盛んになるためには何が必要ですか。

ツェシャー所長:
大事なことは、パートナーシップです。林業者・製材者・販売者がよきパートナーとなり、協力しあうことで林業は発展できます。オーストリアはそのパートナーシップがうまくいっているので、世界的に林業が強くなってきています。日本はもともと林業においてもすばらしい教育水準がある国なので、ぜひ未来の地球環境との調和も考えつつ、林業・バイオマスエネルギーなどエコエネルギーを発展させていって欲しいですね。

*『Basisdaten 2013 Bioenergie』(Österreichischer Biomasse-Verband)参照。2011年の統計値。

次は、はるばる、オッシアッハ森林研修所にやってきた日本の研修生を取材した記事になります。お楽しみに!!

取材 アイシス・ウィーン支部 ゼマンみのり記者



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