自分が変われば世界が変わる

大自然から生まれたフナとロミロミ

カミムラ マリコ

カミムラ・マイレ・ラウリ・イ・マリコ …… 風 と踊る小さなマイレの葉がカミムラマリコさんのハワイアンネームだ。

フナ(ハワイやポリネシアの伝統的な大自然の叡智)を現代に広めたサージ・キング氏などのもとでトレーニングを受け、ハワイのシャーマニズム、ボディーワーク ロミロミ の指導者として2000年から日本で活動している。
ロミロミとはハワイやポリネシアに伝わる伝統的な古式ハンドマッサージのこと。アロマオイルを使い、手のひらや腕でマッサージをしながら癒しのエネルギーを注入し、疲れや滞りを軽くしていく。施術者と受け手のエネルギー循環が大きく作用するものだ。

 「ロミロミをするうえで大切な7つの要素があります。それはフナの教えにあるものです。その7つの教えとは、

  1. 世界は自分の思ったとおりになる。
  2. 限界というものは存在しない。
  3. エネルギーは、注意を向けた方に向かう。
  4. 力は「今」この瞬間にある。
  5. 愛するということは、幸福を感じる事。
  6. 真の力は内側から来る。
  7. 正しい道。出た結果は真実のものさしなる。

つまり何事も自分の心、内面から生まれるものであるということを教えてくれているんです。この教えをしっかり学んでからでないと、基本的には、ロミロミの施術を人に施すことはできません」。
フナには"秘儀"という意味もある。ハワイでカフナの家で親から子へと伝えられてきた古代の叡智。フ(Hu)は男性的要素、(Na)は女性的要素という意味もある。中国の陰陽と似た考え方で、自分の中のフナのバランス、自然レベルでの陰陽のバランス、つまり、宇宙間に存在するすべてのものは陰陽バランスで成り立ち、つながっていると考えるものだ。
「大自然の愛を感じることができれば、それと同じエネルギーが自分の中に流れていることがわかる。それは自分への愛=周囲への愛、世界・地球・宇宙全体の調和へと発展していくんです。この教えはロミロミやフラ・ダンスをやるうえで基礎なのです」。
フナの教えはすべてに通じる大きな愛のエネルギーというわけだ。

偶然は必然であり、運命の出会いにもなる


ロミロミマッサージ

カミムラさんはいまやロミロミの日本での第一人者的存在だが、この道に目覚めたのは自分自身の危機がきっかけだ。
「転機は2回ありました。最初は20代の頃。仕事や人間関係のことでとても不安でいろいろな治療を受けたのですが、なかなか治らなくて。ある日、たまたま受けた気功がすごく効いて状態がよくなったんですね。それで触らないのにエネルギーを感じるなんてすごいな、と。それまではそういうものはまったく信じていませんでしたし、興味もなかった。でも、見えない世界がある、自然のエネルギーというものがあるということを知りましたね」。
カミムラさんはこのとき何かを学ぶところまではいかなかったが、種は確実に蒔かれていた。
「2回目は33歳くらいのとき。やはり大きな精神的ダメージがあって今度は自律神経失調症になってしまったんです。精神科のお医者様に行きましたが5分~10分くらいしか話さなくてすぐに睡眠薬や抗うつ剤をもらって終わり。それが嫌で別のカウンセラーさんのところへも行きましたが、どうみても先生のほうが病んでるよ! というかんじの方で(笑)、怖くなって逃げてきたこともあったんですよ」。
そんな苦しい時期に友人がハワイで本を書くために1年間滞在すると言って20年働いた会社を辞めて本当に行ってしまった。
カミムラさんにとってのそれまでのハワイのイメージはワイキキで買い物、という観光地程度のもの。「なぜ?」という思いでいると、やがて別の友人が家族旅行のハワイから戻り「あんなに気候のいいところはない、一生住みたい!」と絶賛。カミムラさんの耳に"ハワイ、ハワイ"という言葉が何度も飛び込んできた。その直後、『ハワイアン・ヒーリング』(サージ・キング著/国書刊行会)という本に出会った。
「この本を読んですぐに『これだ!』と思いました。『私、これぜんぶ知ってる』という感覚があった。それですぐにハワイのカウアイ島に行ってシャーマンに会いたい、できればサージ・キング自身に会いたい! と思ってすぐに行っちゃったんです(笑)」。
日本からキング氏のスタッフにメールを送りどうにか連絡を取りつけた。5分先のことしか考えられないくらいに病んでいたと笑いながら当時を振り返るカミムラさんだが、それでも必死の思いを抱えてカウアイ島へ飛んだ。

本当に会えるのだろうか? 

「ところが私は勢いで来たのはいいけど、連絡先を書いたメモを本に挟んで日本に置いてきてしまったんです。住所も電話番号も知らないしどうしようと途方に暮れていたんですけれど、プリンシビルという町の名前だけぼんやりと覚えていたので地図を見ながらレンタカーでどうにか行ってみたんです。町には着いたけれど、さてどうしよう、とぼおっとしていたらなんと目の前からサージ・キングらしき人が歩いてくる!特徴のあるお顔なんですよ(笑)ドキドキしながら『サージ・キングですか?』と声をかけると『そうだ』と。もう信じられない気持ちで『あなたに会いに来たんだ』と言うと『ウェルカム!』と言って事務所に連れていってくれたんです。本当に驚きでした」。
この出会いからカミムラさんの気づきの旅が始まった。

キング氏の教えとハワイから学んだ本当の愛


ロミロミの仲間たち

日本から来た女の子。悩みを抱え、苦しみを癒したくてカウアイ島までやってきたという必死さがハワイの神を動かしたのだろう、サージ・キング氏と無事に出会えたカミムラさんの心にキング氏は次々と栄養を与えていく。
「彼に会えたうれしさで、私は一生懸命に『日本ではこうこう、こういうことがあって、すごく哀しくて苦しくて……』と話していたら、『それはいいから、あなたは未来にどうなりたいの?』とすぐに過去から未来にシフトしてくれたんですね。ハッとしました。それで『カウアイ島みたいな美しいところでニコニコしながら暮らしていきたい』って言ったら、『じゃあそれをイメージしなさい』と」。
次にキング氏は心と身体のつながりをとても簡単な方法で見せてくれた。マッスルテストというもので、ネガティブなイメージが心にある場合には身体の筋肉が萎縮して力が入らず、未来はこうなりたいという明るいイメージした場合にはぐっと力が出るというものだ。そこから2週間ほどをカウアイ島の海岸で過ごし、心に「こうなりたい」という明るい未来の自分を描き続けたという。
「するとそれまでヘルメットで締め付けられていたように続いていた頭痛がすうっと引いて楽になっていったんです。これはすごい! とびっくりしましたね。たった2週間でかなり状態がよくなって、それでもっと深く知りたいと思うようになったんです」。
その後、カウアイ島で行われるあらゆるセミナーに参加して、感動を重ねたカミムラさんはクプナ(長老)、クプア(シャーマン)、カフナ(古代からの叡智の先生)たちのもとでも学び続け、自己改革をしていった。やがてこの感動を日本でも伝えたい、と人へ施すことへ心が働くようになった。自分と同じように悩み、苦しんでいる大勢の人たちを少しでも楽にしてあげたい。私にはきっとそれができる。ハワイの精神はきっと日本の人にも理解してもらえるに違いない、と確信したという。
「ハワイの文化には私の細胞が知っているという感覚で違和感なく溶け込めましたから、日本人にもその大自然のエネルギーのすごさを感じることはできるのではないかと思ったんです。それは古代の歴史から来ているのか(ハワイやポリネシア諸島と沖縄やアイヌは大昔、同じ文化を共有するものであった、または交流があったとするもの)わかりませんが、ハワイのフナと日本の古神道は同じだと思うんです。自然の中に宇宙の法則があり、それは私たち人間も動植物もまったく同じように働いていて、すべてが循環して調和の中にいるということです」。

大自然がくれる無償の愛

ハワイの自然に癒され、カミムラさんが本当にやりたいこと、どうありたいかを知ることができ、ヴィジョンを描くことで、大きく広がる自分を発見する。そこには大自然という無償の慈愛があること、自分の夢を阻むものはないどころか、達成へ向けてエネルギーを与えてくれることを知ったカミムラさん。もし、それが無茶な夢であるならば、調和を壊す夢であるならば、それを諭す形で結果が現れることをも、自然は教えてくれるという。
「自然の調和、循環はどこかのバランスが崩れるとそれに合わせてほかも調整しようとしますよね。たとえば、人の身体。風邪の菌が入っても少しなら免疫細胞が働いてちょっとの症状ですぐに治る。でも、それが大量になると調整が追いつかなくて倒れしてしまう。自然だってそうなんです。今の環境へも意識を変えて行動に移していかないと取り返しのつかないことになる。今を見れば、今の状態がわかる。それが大自然の愛です。いいヴィジョンを想い描いて自然の摂理に従って行動すればぜったいに裏切らないんです」。
カミムラさんがハワイで得た気づきは大きな愛の学びとなった。

治療は、自分の未来のイメージを描くことから始まる


カウアイ島トレッキング中

ロミロミを受ける、施す上でもっとも大切なことは「まず自分が変わること」だという。
「自分の心をじっと見ることから始まるんです。自分がどうなりたいのか、どうしたいのか、そこを想い描くことなしに、外からの施術だけで変わることはありえません。ですから、ロミロミはあくまで変化のためのお手伝い、エネルギーチャージをするものくらいに考えていただけたらと思います。誰もが何でも一人できればいいですけれど、日常生活ではそうもいかないことが多い。今日はちょっと助けてもらおう、というときに来ていただくのがいいのかな、と思います。また施術者になりたい人も、まず自分の心が穏やかであることが大切です。それが相手に伝わってしまいますから。でも自分が施すことで相手が癒されていることを感じられたら、それが喜びとなって自分が癒される、ということもありますから、やはり施術というのは受け手と施術者の循環なのだな、と思いますね」。
人間は小宇宙だとよく言われるが、宇宙の循環の法則がロミロミを通して人の身体や心にも働いていることがわかる。
今後のカミムラさんは、じつはこの本が出るころにはハワイ島にほぼ移住の形で滞在しているはずだ。パートナーとともに新しい家族を作るんです、とカミムラさんはうれしそうに微笑んだ。

自然に触れ、本当の幸せを見つける

 想い描くヴィジョンに向けて、実際に行動を起こすこと。カミムラさんは気負いなく、それをやってのける。それもハワイのシャーマンやカフナ(古代ハワイやポリネシアの叡智を伝える人)の教えがあるからだろう。

自分の内側の世界は、外側の世界とつながっている。
自分の内側がよくなれば、世界はよくなる。
自分を許すことは、周りを許すこと。
自分を癒すことができれば、周りを癒すことができる。
ゆえに、
周りを非難することは、自分を非難すること。
だから一番大切なのは、
自分を愛して、周りを愛すること。


不思議と、ひとつひとつの言葉がすっと心に入ってくる。こんなにもシンプルな表現であるが、実行することのなんと難しいことだろう。
「今の人たちはいつも頭でいろいろと考えすぎているんです。かつての私もそうでした。ロミロミにいらっしゃる方のほとんどが肩がこっていますし、頭も、腰も、こっていますね。心と自律神経はつながっていますから、そのひずみが身体に出ているんです」。
うーん、たしかに。自分の身体のことを思いながら、どうすればいいのかを尋ねてみた。
「やはりこうありたい自分のヴィジョンをよりはっきりと描くこと。そして勇気を持って動くことです。すべてがいい方向へ行くことをイメージして、自分に限界を作らないで、手かせ足かせをはめないで、心からやりたいことをやること。あと、自然にたくさん触れることも大事ですよ。感情や感じる心が大きくなりますよ。畑仕事なんかもいいですね。自然と関わると心が解けて大切なものが見えてきますから、『やりたいことがみつからない』という人がいたら、まず自然に触れてみるというのはいいかもしれません」。
大きな太陽や海を見ているだけで、世界の広さ、自分の住む世界の小ささに気づかされるが、そんなところから自分探しは始まるのかもしれない。太陽を浴びた日はよく眠れるというが、それで心も身体もリセットされるということなのだろうか。
「将来的にはハワイでイルカと泳ぐとか、農業体験でタロイモ栽培をするとか、大自然に触れながら皆でワ~っとやれることをやっていきたいと思っています。来る人たち全員がぶっとんで元気になれるような、ワークショップを企画したいですね。やっぱりね、体感しないとわからないんですよ。全身が震えるようなダイナミックな感動を得られることをどんどんやっていきたいですね」。

「フラ」おどり

人生は自分の目の前に広がる世界だけではないかもしれない。そんなことを大自然の中で全身全霊で感じられたら、日常のさまざまなことも「法則にのっとって起きたこと」としっかりと受け入れられるようになるのだろうか。そのためにも自分の心と身体はいつも自然とともに調和していたいと願わずにはいられない。現代に生を受けた、すべてとともに調和するべき、霊長類の人間として。

アイシスラテール夏号(2006年発行)より インタビュアー/立川美十